焦がせ

ノートルダムの鐘千秋楽。

f:id:cc832:20240225222934j:image

いつもノートルダムって余韻に浸りつつ、結構翌日なんかは切り替えられている方だったのだけれど、千秋楽ということを差し置いてもとても良い観劇体験で、珍しくひきずっている。

f:id:cc832:20240225222940j:image

まず寺元さんカジモド。
引きずっている要因でもある。ああもっと観ておくべきカジモドだったなあと、千秋楽に後悔した。


Out thereでしゃがれ声から歌声に変わる「どんなに素敵だろう」というフレーズは、寺元さんの優しく透明感のある歌声だからこそより際立つ。
そしてロングトーンの美しさ。「陽ざしの中へ」という最後のフレーズは、後半にかけてむしろ声量とビブラートが増していき、劇場全体にまさに響き渡る。お世辞にも大柄ではない寺元さんのどこから声が出るんだい?!とそのパワフルさに驚く。歌い終わりにひょこひょことはけていくのもなんだか愛らしくて、カジの希望ある未来を祈らずにはいられず、思わず微笑んだ。そう言えば前回も思ったけれど、途中ベンチでの側転、対空時間長くない?身軽なんだなあと。

カジモドが純粋であることは勿論どなたが演じても共通に感じる部分ではあるけれど、一言で表すなら金本さんが「無邪気な」カジモド、寺元さんは「繊細な(影響を受けやすい)」カジモドだと思う。感情の向き方がより自分に、内向的だなと。

その繊細さが特に表現されてるなあと思うのはやっぱりHeaven's lightかな。金本さんの同曲がじめっとした暗い聖堂、物語の中における一筋の希望の光なら、寺元さんのこの曲は優しく淡い期待の光。良し悪しではなくて、同じ曲でもここまで感じ方が違うんだなあと。

あと実は今まで特別な思い入れがなかった(失礼)In a place of miracleは寺元さんカジを観てから腑に落ちた感覚があって。
立ち位置的にも、エスメ&フィーバス達とカジの曲だと今まで解釈していたけれど、ああ逆かもなと。三人の掛け合いなので主張が強いわけではないし、メロディーラインはあくまでエスメ達なんだけれど、それでも「僕の愛は報われない」「孤独に生きよう」「心を閉ざして」のフレーズは、前段のHeven's〜からの一連の流れを経て諦めに繋がる。今までもそう思わなかったわけではなかったけれど、でもやっぱり自分ではだめなんだという帰結がなんというか日本人らしい感覚だなあと思うんだよね。

MOS前半も同様。期待を打ち砕かれた絶望というよりは「やっぱり僕にはできなかった」という諦めを感じ、どこまでも内向的で繊細なカジだなと。だからこそ後半の「ひとりにしてくれよ」からが、自分のキャパを超えた出来事、感情に対する本音なのだなというふうに捉えられる。
「心閉ざして」のロングトーンは圧巻。特に千秋楽はどこまで伸びるの?!曲終わるよ?!とかえってヒヤッとしてしまうくらいには伸びやかで、寺元さんの作品、曲、千秋楽にかける気概を感じた。

Finaleは見どころがたくさんあるのだけれど、私の好きなシーンはガーゴイルたちの間を縫うように聖堂を抜け出すシーン。彼らに添える手が壊れものを扱うように優しく丁寧で、カジにとってはやはりただの石ではなく、大事な友人・話し相手なのだとグッとくる。
サンクチュアリ!聖域だ!」は声が裏返るほどの声量と迫力で、息を呑んだ。
Twitterとか見ていると「焦がせ」の箇所お好きな方も多いようだけれど、私自身は実は今までそう感じたことはなく。ただ千秋楽のこの一言はいつにも増して固い意志が感じられたんだよね、アンサンブルの方々との一体感もすごくよくて、シンプルな感想なんだけれどかっこよかったなと思ったんだ。

やり切ったというか出し切ったというか、達成感というか疲労というか、カテコの寺元さんの表情はとても清々しく見えた。お一人で出てきて客席隅々まで大きく手を振りながらひょこひょこと後ろに下がっていく様子、可愛かったな。
鐘終わられたら何やられるんでしょう?四季歴はそこまで長くないからこそ、まだまだいろんな役で見たい。ビジュアルと声質でスキンブルとかいいんじゃないかなって勝手に思っています(イメージ的には小柄で可愛らしいコリコなんだけど、ダンスはどうなんだろう。)

寺元さんカジだけでものすごい熱量で文章を作ってしまったけれど、千秋楽で初見だった道口さんフロローについても。

私の描いていたフロローって、弟との死別やカジの育ての親となる決意を経て真っ当に生きようとしている中でエスメに出会い、それゆえ段々と道を逸れていく狂気っていうある種できたストーリーの中に生きる人だったんだけど。
道口さんのフロローは最初から人と交わる点がない。差別(と本人は思わない)を恥じず、ほれ口付けしてみなさいと言わんばかりに差し出す手は傲慢。ジプシーのお祭りで世間が自分をどう見ているかという現実を思い知ることになったカジには一瞥もくれず、立ち去る。しかもそれは愛の鞭や憐れみなんてそんな優しいものではなく、軽蔑しているんだよね。
正義感の強さがかえって悪役(言ってしまった)となるに足る要因になっている。そして常に沸騰している終始激情型のフロロー。初めてだったのでかなり圧倒されたのだけれど、こういうフロローもあるのかと。というか映画や原作はもしかするとこちら寄りなのかな?道口さんのフロローであれば、寺元さんカジの内向的な面にも納得がいくとも言える(あのフロローにしめ無邪気なカジだったらメンタル強すぎる)かも。

フロローの人格という意味では道口さん一回では理解するのが難しかったけれど、とても良いなと思ったのはボディランゲージ、特に手の表情が豊かでわかりやすいなと。前述した口付けの件も然り、カジを打とうとした手でそのまま抱き寄せる時の力の込め方、呪いの象徴ともいうべき赤いスカーフを亡骸となったエスメに落とす(戻す)時の未練のなさ。今まであまり注目していなかった部分に気づかせてくれた。

そういやエスメのことを忘れようとカジとフロローが誓った後のシーン、オペラグラスで見ていたんだけれど、お二人ともあんなに恐ろしい表情をしていたとは。生気を失い茫然としたあのカジの目に対して、意味ありげに階段を見つめるフロローの視線。
よくある親子の就寝前の一コマかもしれないけれど、その先の運命を予言するかのように二人とも視線を合わせることはなく、全く違う方向を見て交わすあの「おやすみ」の一言があまりに恐ろしくて鳥肌がたった。


東京公演の心残りは、やっぱり金本さんカジと佐久間さんフィーバスかな 笑。他の方が取り立てて良くないとかそういうわけではなく、物語の解釈においてこのお二人の存在はすごく大きく。
東京公演はもっともっと観たかったけれど、私自身がすごーーく保守派ということもあり、それが叶わなかった一つの要因はお二人の出演がなかったことも実はあったり。
ただ私としては勇気を出して(と言ったら失礼かもしれないけれど)観た寺元さんカジでとても良い体験ができたので、今となってはやっぱり他のキャストさんでも観ておくべきだったかなというところです。


しばらく再演はないのかもしれないけれど、それならばキャストの方々の他での活躍を拝見して、またその日を迎えられることを願います。